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東京地方裁判所 平成8年(ワ)14261号 判決 2000年5月25日

原告

大野勝彦

外四名

右五名訴訟代理人弁護士

赤坂裕彦

流矢大士

佐藤康則

富永紳

被告

株式会社総建

右代表者代表取締役

市河政彦

右訴訟代理人弁護士

志村新

中川真

亡岩崎チズ子訴訟承継人

被告

岩崎美由紀

右特別代理人弁護士

熊田士郎

被告

大伸フード株式会社

右代表者代表取締役

山﨑喜久男

被告

株式会社山﨑企画

右代表者代表取締役

山﨑猛雄

右両名訴訟代理人弁護士

山崎俊和

向井千景

竹谷裕

主文

一  被告大伸フード株式会社及び被告株式会社山﨑企画は、連帯して、原告大野勝彦に対し金一二三四万五七四八円、原告大久保利通に対し金六一〇万六二〇二円、原告平野顥治に対し金三三三万九九〇四円、原告平野榮子に対し金三三三万九九〇四円、原告金田秀信に対し金六二五万二一九〇円とこれらに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らの被告大伸フード株式会社及び被告株式会社山﨑企画に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  原告らの被告株式会社総建及び被告岩崎美由紀に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用のうち、原告らに生じた費用の四分の三と被告株式会社総建及び被告岩崎美由紀に生じた費用は原告らの負担とし、その余の費用は被告大伸フード株式会社及び被告株式会社山﨑企画の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告株式会社総建は、原告大野勝彦に対し金二三五一万一四三四円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を、原告大久保利通に対し金一一六二万八七四六円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を、原告平野顥治に対し金六三六万〇五六五円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を、原告平野榮子に対し金六三六万〇五六五円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を、原告金田秀信に対し金一一九〇万六七六八円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告大伸フード株式会社及び被告株式会社山﨑企画は、連帯して、原告大野勝彦に対し金二三五一万一四三四円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告大久保利通に対し金一一六二万八七四六円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告平野顥治に対し金六三六万〇五六五円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告平野榮子に対し金六三六万〇五六五円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告金田秀信に対し金一一九〇万六七六八円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告株式会社総建は、原告らに対し、別紙物件目録一記載の土地を明け渡せ。

四  被告株式会社総建は、原告らに対し、別紙物件目録二1記載の建物を撤去した上、同目録二2記載の建物を設置せよ。

五  被告岩崎美由紀は、原告らに対し、別紙物件目録三記載の建物を撤去し、原状回復工事をせよ。

第二  事案の概要

一  原告らの主張

(請求の趣旨第一、二項について)

1  本件の原告らは、被告総建から東京都渋谷区***一丁目四〇番一二号に存する***チェリーマンション(以下、本件建物という。)の区分所有権を買い受けた者である。本件建物の建築確認に当たっては、亡髙木顯(以下、亡髙木という。)が所有していた昭和五一年八月五日に分筆される前の東京都渋谷区代々木一丁目四〇番六(以下、土地の表示については、四〇番六の土地というように地番以下のみを示す。)の土地654.54平方メートルのうち、別紙第一図記載のア・イ・ウ・エ・オ・カ・アの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分貸家敷地部分を除く557.654平方メートル(以下、本件土地という。)を敷地として申請がされた。

本件土地のうち、南側の別紙第二図記載のサ・シ・ス・セ・ソ・タ・サの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分189.784平方メートル(以下、本件南側土地という。)は、本件建物建築後も亡髙木の名義とされ、本件建物の区分所有権となった亡髙木が庭及び駐車場として専有使用していた。

本件土地のうち本件南側土地を除いた部分(以下、本件北側土地という。)は、細かく分筆され、本件建物の区分所有者が区分所有権取得時にそれぞれの一筆を取得した。

被告総建と亡髙木とは、本件マンション建築に当たり、本件土地に地上権を設定し、これを両者の準共有とし、本件土地を本件土地の敷地以外には使用しないことを合意した。原告らは、本件建物の区分所有権取得に伴い右地上権の持分を取得した。

2  亡髙木は平成三年九月四日死亡し、髙木悦子及び髙木俊和がその遺産を相続したところ、被告大伸フード及び被告山﨑企画は、平成六年五月一八日、右両名から本件建物の一階部分(登記簿上地下一階部分、195.70平方メートル)の区分所有権、本件北側土地の一部である四〇番一二の宅地(72.98平方メートル)及び本件南側土地を含む平成六年八月一日分筆される前の四〇番六の宅地(300.82平方メートル)を買い受けた後、同年八月一日、四〇番六の土地を分筆した上で、四棟の建物を建築し、他に譲渡した。

3  被告大伸フード及び被告山﨑企画の右行為は、いわゆる敷地の二重使用行為(同一敷地に重複して建物を建築する行為)であり、その結果、原告らを含む本件建物の区分所有者は、本件南側土地の地上権を喪失し、仮に地上権喪失の事実がないとしても、渋谷区建築部長から、本件建物が建築基準法第五二条及び東京都建築安全条例第一九条に違反する旨の指摘を受け、是正を迫られるに至り、本件建物を改築する場合には、現在と同等の容積率をもって建築することが不可能となったことにより、地上権を喪失したのと同等の損害を受けた。

本件南側土地一平方メートル当りの地上権の時価は金八四万七〇〇〇円を下らないから、本件建物の占有面積の割合で割り振った原告らの被った損害額は、少なくとも以下の通りとなる。なお、右の容積率の減少に応じて、その分だけ原告らの所有する区分所有権の価値が減少したと考えて、原告らの損害額を算定したとすると、その額は右金額を上回るものから、原告らは右金額の範囲内で損害を主張する。

原告大野勝彦 二一三七万四〇三一円

原告大久保利通 一〇五七万一五八八円

原告平野顥治 五七八万二三三二円

原告平野榮子 五七八万二三三二円

原告金田秀信 一〇八二万四三三五円

また、原告らは、本件につき弁護士に依頼して事件を解決することとし、右損害額の一割に相当する金額の弁護士費用の負担を余儀なくされたから、これを加えた原告らの総損害額は、次のとおりとなる。

原告大野勝彦 二三五一万一四三四円

原告大久保利通 一一六二万八七四六円

原告平野顥治 六三六万〇五六五円

原告平野榮子 六三六万〇五六五円

原告金田秀信 一一九〇万六七六八円

4  被告総建は、右原告らの損害につき、第一に、原告らに区分所有権を譲渡するに当たり、敷地につき地上権等第三者に対抗し得る権利を設定し対抗要件を具備すべき義務があり、仮に右義務がないとしても本件建物が将来敷地の二重使用により建築基準法上不適法なものとなる可能性のあることを説明すべき義務があったのに、これらの義務を怠った点、及び右可能性がないかのように原告らを誤信させて区分所有権を購入させた点において不法行為責任を負い、第二に、区分所有権の売主として、亡髙木から設定を受けた原告らに地上権の持分権を取得させ、仮に地上権の設定がない場合には、地上権等の第三者に対抗し得る権利を取得して、それぞれ地上権持分権移転登記手続をすべき義務があったのに、これを履行しないまま本件南側土地を二重使用されたことにより、右義務が履行不能となった点で債務不履行責任を負い、第三に、原告らに本件南側土地を本件建物の敷地として利用し得る権利を取得させられなかった点につき、売主の担保責任を負い、第四に、昭和五二年七月ころ原告らと管理契約を締結して、本件建物及び本件土地の管理を任されたにもかかわらず、本件南側土地を侵奪された点において、右管理契約の受任者としての義務を怠った債務不履行責任を負うべきである。

被告大伸フード及び被告山﨑企画は、前記3の行為により、故意又は過失により原告らの地上権を侵害したものであり、また、本件建物の区分所有者として本件建物の存立を危うくするような行為をしてはならないにもかかわらず、本件南側土地を二重に使用することによって本件建物の敷地面積に不足を生じさせたのであるから、原告らに対して不法行為責任を負うべきである。

5  よって、原告らは、右被告三名に対し、それぞれ前記3の損害額とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成八年八月一日から支払済みまで、被告総建については商事法定利率年六分、被告大伸フード及び被告山﨑企画については民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

6  なお、原告らと被告総建との間の売買契約における買戻の特約及び除斥期間の定めは、いずれも無効であり、仮に有効であるとしても被告総建がその効力を主張するのは権利の濫用に当たり許されないし、買戻特約については既に五年の買戻期間を徒過している。また、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は履行不能が確実となった時点と考えるべきであるし、仮に消滅時効が完成しているとしても、これを援用することは権利の濫用に当たり許されない。

(請求の趣旨第三項について)

被告総建は、本件土地の一部である別紙物件目録一記載の土地を駐車場として長期にわたり独占的に使用し、駐車場料金を収受し、不当な利益を得てきたものである。

そこで、原告らは、被告総建に対し、前記地上権に基づき、右土地の明渡しを求める。

(請求の趣旨第四項について)

被告総建は、本件建物の共有部分であるにもかかわらず、別紙物件目録二記載の建物部分を原告らに無断で増築した。

そこで、原告らは、被告総建に対し、本件建物の共有持分権による妨害排除請求権に基づき右建物部分の撤去を、原状回復請求権に基づき元の建物部分の設置をそれぞれ請求する。

(請求の趣旨第五項について)

被告岩崎は、本件建物の共有部分であるにもかかわらず、被告総建と共謀して、別紙物件目録三記載の建物部分を原告らに無断で増築した。

そこで、原告らは被告岩崎に対して、本件建物の共有持分権による妨害排除請求権に基づき右建物部分の撤去を、原状回復請求権に基づき元の建物部分の設置をそれぞれ請求する。

二  被告総建の主張

(請求の趣旨第一項について)

1 亡髙木は、本件南側土地には地上権はもとより本件建物の区分所有者のためには何らの権利も設定せず、被告総建も原告らにそのような権利は譲渡していないから、地上権持分の取得を前提とする原告らの請求は前提を欠くものである。

2 被告総建は、亡髙木との間で、本件土地を建築基準法上本件建物の敷地として、本件建物を建築時において建築基準法上適法なものとしたことはもとより、将来においてもこの適法性の維持に努めるとの合意をした上で、原告らに区分所有権を譲渡したのであるから、売主としての義務は尽くしており、債務不履行又は不法行為の成立する余地はない。仮に、被告総建に売主としての債務不履行があったとしても、それによる損害賠償請求権は昭和六二年七月ころには時効によって消滅しているので、右消滅時効を援用する。

3 原告ら主張の担保責任については、これが仮にあったとしても、契約上二年間の除斥期間が定められているから既に消滅しているし、契約においては被告総建が売値で買い戻すことにより担保責任を免れる旨の特約もあった。

4 管理契約についても、原告らは右のとおり地上権の持分権を取得していないのであるから、そのような権利が管理の対象となることはないし、もともと同契約は本件建物を対象とするものであって、その敷地を対象とするものではない。

5 原告らの主張する損害は、不動産価格の高騰を前提としているが、そのような事情は被告総建には予測し得ない特別事情に該当する。また、その内容は、将来建て替える際に建築し得る面積が減少するというものであるから、損害の算定に当たっては、建替の際の建築費用を控除し、建替時までの中間利息を控除し、更に、原告らが被告大伸フードらの不法行為を防止すべき義務を怠った点で、過失相殺を行うべきである。

(請求の趣旨第三項について)

原告らの請求は、別紙物件目録一記載の土地に原告らが地上権を有していることが前提となっているが、前記のとおり、原告らは右土地に地上権を有してはいないから、その請求は前提を欠くものである。

また、原告らと被告総建との売買契約において、敷地内の空地は被告総建において駐車場として使用することとなっており、原告らに利用権はない。

(請求の趣旨第四項について)

原告らは、本件建物の六階部分はペントハウスとして完成した後に被告総建において増築したものであると主張しているが、右のようにペントハウスとして完成した事実はなく、当初から現在の面積で完成していたものであるから、原告らの主張は理由がない。

三  被告岩崎の主張

被告岩崎は、昭和五二年一一月二〇日、木部弘人から本件建物四〇一号室の区分所有権を買い受けたが、その際別紙物件目録三記載の部分にはサンルームが設置されており、その部分の専用使用権も併せて買い受けて使用を開始したものである。仮に、その際、右部分につき専用使用権が設定されていなかったとしても、被告岩崎は、右部分の専用使用権を時効により取得しているから、これを援用する。

四  被告大伸フード及び被告山﨑企画の主張

原告らは本件南側土地に地上権を有してはいなかったし、本件南側土地は本件建物の法定敷地でもなかったのであるから、原告らの主張は前提を欠くし、右被告らは、その行為によって本件建物が建築基準法違反の状態となることにつき、悪意はなかったから、いずれにしても右被告らの行為は不法行為を構成しない。

第三  当裁判所の判断

一  証拠(甲一ないし一三、一四ないし二七の各1、2、二八ないし四六、四七の1、2、四八、四九の1ないし3、五〇の1ないし4、五一、五二の1ないし14、五三の1、2、五四ないし五九、六二、六三、六四の1ないし5、六五、六六、六七の1ないし5、六八、六九、七〇の1ないし5、七一、七二、七三の1ないし3、七四ないし八〇、八一の1ないし11、八七の1、2、九〇ないし九六、九九の1ないし7、一〇〇ないし一〇三、一〇五ないし一〇八、一一三、一一六の1にし4、一一七の1、2、一一八の1ないし5、一一九の1、2、一二〇の1ないし7、一二一の1ないし6、一二二、一二三の1ないし13、一二九ないし一三二、一四〇の1ないし26、一四一ないし一四五、乙イ一、三の1ないし4、四の1、2、七の1、2、八の1ないし5、九、一三ないし一六、一九の1、二一ないし二六、三三ないし三六、四五及び四六の各1、2、四七、五〇、五三、五四の1、2、五五、五七の1、五八、七一の1、2、七二ないし七九、八五、乙ロ一、二、四、乙ハ一、二の1、2、六ないし八、一一ないし一二、一三及び一四の1ないし3、二七ないし三一、三三、三四、三六ないし三八、三九ないし四一、四三、証人大久保よし枝及び宮本啓太郎の証言、原告大野勝彦、同平野榮子、同金田秀信及び被告総建代表者尋問の結果、検証の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  亡髙木は、自衛隊に勤務する医師であって、昭和五〇年ころ、分筆される前の四〇番六の土地(654.54平方メートル。)を所有し、そのうち貸地として小宮山岳三郎に貸していた部分を除く本件土地を自宅敷地として利用していたが、かねてから四〇番六の土地のうち約三五〇平方メートルの土地に自宅兼貸室となるマンションを建て、その余の約三〇〇平方メートルの土地は将来自己の医院建設用地とするために残しておきたいと考えており、建築の企画設計や不動産の売買等を業とする被告総建(当時の商号は、株式会社大進商事)の代表者と知り合ったことから、このことを同人に相談した。

両者の間で、亡髙木が自己資金を有しないことから、等価交換方式により、被告総建が自己の費用でマンションを建築し、その一階及び二階を亡髙木が取得し、その余を被告総建が取得すること、マンションの敷地三五〇平方メートルのうち、亡髙木が約六〇パーセントを持分又は分筆して所有し、その余は被告総建が取得して自己が取得したマンションの区分所有権と共に販売することを前提として、検討が進められた。

しかし、本件土地の容積率は、付近の土地が三〇〇パーセントであるのに対し、接道している道路が狭いために一六〇パーセントに制限されており、敷地を三五〇平方メートルとすると、建築できる建物の総床面積が五六〇平方メートルにしかならず、一つの階の床面積を二〇〇平方メートルとすると三階建てのものしか建てられないため、被告総建が取得できるのは三階だけとなってしまい、採算が合わないことが判明した。

2  そこで、両者の間で、本件南側土地は亡髙木の所有のまま残し、地上権や賃借権などの負担は一切つけないが、将来亡髙木において本件南側土地に建物を建てるときには、道幅を広げ容積率の増加を行政機関に認めさせた上で行うとの了解の下に、建築確認においては本件土地全部を敷地として申請する旨の合意をし、そのとおりの確認申請がされ、その後、亡髙木は、妻悦子との連名で、被告総建に対し、本件南側土地を建築基準法上の敷地として利用する権利を認め、そのような敷地として維持管理することを委任する旨の委任状を差し入れた(乙ハ二の1。なお、甲第五八ないし六一号証、第一四一号証及び乙ハ第二八号証中には、被告総建が本件南側土地に地上権等の権利が存在するものと考えていたことを窺わせる部分があるが、これらは、本件南側土地に新たな建築確認申請がされた後に、同被告がその効力を争うなどして本件建物の区分所有者の権利を守ることを目的として、行政官庁や裁判所に対して表明された意見であって、その性質上、事実関係を一方的に自己に有利に解釈してなされたものというほかなく、これらを裏付ける直接的な証拠がない以上、客観的な事実関係と一致するものとは認め難いし、右合意の一方の当事者である被告総建が現時点では、右認定のとおり主張し、亡髙木の妻である髙木悦子もこれに添う説明(乙ハ二八)をしていることなどに照らすと、乙イ第二三ないし二五号証、第七六号証、第八五号証、乙ハ第二号証の1、第二八号証及び被告総建代表者尋問の結果により、右のとおり認定するのが相当である。)。

また、被告総建と亡髙木は、昭和五一年五月二〇日、右合意に基づいて土地建物交換等契約書(乙イ一)を作成したが、この契約書に表示された本件建物の構造及び床面積は、次のとおりであり、鉄筋コンクリート造陸屋根五階建とするものの、亡髙木は、被告総建又はその指定する者の希望する場合には、ベランダを増設し、一部を六階建てとすることを承諾した。

床面積

一階 216.27平方メートル

二階 179.55平方メートル

三階 186.03平方メートル

四階 186.03平方メートル

五階 140.71平方メートル

六階及び居室 面積未定

被告総建は、亡髙木と共に、昭和五一年八月五日、四〇番六(654.54平方メートル)の土地を四〇番六(300.82平方メートル、この土地は、貸地部分及び本件南側土地にほぼ相当するが、本件北側土地のうちの公道に面した細長い部分も含むものである。)、四〇番一〇(20.73平方メートル)、四〇番一一(200.98平方メートル)、四〇番一二(131.99平方メートル)に分筆し、このうち四〇番一二の土地は亡髙木の所有のままとし、昭和五二年一〇月五日、四〇番一二(72.98平方メートル)、四〇番二〇(二〇平方メートル)、四〇番二一(二〇平方メートル)及び四〇番二二(二〇平方メートル)に分筆され、四〇番一〇の土地については被告総建に売買を原因とする移転登記がされた。また、四〇番一一の土地は、昭和五二年一月三一日、四〇番一一(47.59平方メートル)、四〇番一三(13.11平方メートル)、四〇番一四(40.27平方メートル)、四〇番一五(20.00平方メートル)、四〇番一六(20.00平方メートル)、四〇番一七(20.00平方メートル)、四〇番一八(20.00平方メートル)及び四〇番一九(20.00平方メートル)に分筆され、それぞれ原告ら本件建物の区分所有権を取得した者に個別的に譲渡された。このように本件北側土地は、一見して本件建物の敷地であることが明らかであるにもかかわらず、本件建物の区分所有者らの共有とはされず、細かく分筆された上、区分所有者らが個別に所有することとされた。

3  原告らは、次のとおり、被告総建から本件建物の区分所有権と本件北側土地の一部を買い受けた。

原告大野   昭和五二年二月七日 三階西南側(三〇一号室)と四〇番一四の土地

原告大久保  昭和五一年一二月二五日 四階南西側(四〇一号室)と四〇番一六の土地

原告平野両名 昭和五一年一二月二七日 四階西側(四〇二号室)と四〇番一五の土地

原告金田   昭和五二年三月二九日 四階北東側(四〇三号室)と四〇番一七の土地

被告総建は、これより先に昭和五一年九月一日に本件建物の建築確認を受けており(同日付け第四三三号、甲四七の1)、その内容は鉄筋コンクリート五階建で階上に23.49平方メートルのペントハウスがあるというものであって、原告らの中には契約前に建築確認どおりの建物ができるとの説明を受けた者もいたが、右各契約書(甲三六ないし三九)中には、鉄筋コンクリート造陸屋根六階建と表示されており、これに疑問を持つ者はなかった。

また、右各契約書中には、「建物内及び敷地内空地の駐車場と建物屋上の使用権は登記の有無に拘らず、売主に帰属する」(第九条)との条項が不動文字で印刷され、原告大野以外の原告らの契約書中には、右条項の「使用権」との文言の上に「増築を含む」と手書きで挿入されていたが、これらの不動文字部分及び挿入部分について異議を述べた者はいなかった。

4  本件建物の表示登記の変遷は次のとおりである(甲一三)。

① 昭和五二年五月二三日登記

所在 四〇番地一一ないし一九の土地

構造 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造陸屋根六階建

床面積

一階 205.38平方メートル

二階 181.67平方メートル

三階 188.15平方メートル

四階 188.15平方メートル

五階 151.52平方メートル

六階 82.44平方メートル

② 昭和五二年七月一二日構造変更、同月二七日登記

構造 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造陸屋根五階建地下一階付

床面積

一階 181.67平方メートル

二階 188.15平方メートル

三階 188.15平方メートル

四階 151.52平方メートル

五階 82.44平方メートル

地下一階 205.38平方メートル

③ 昭和五二年一〇月五日所在変更、同月二八日登記

四〇番一二の土地の分筆の伴い、四〇番二〇ないし二二の土地が加わる。

④ 昭和五四年六月一五日増築、平成三年五月八日登記

四階面積が166.21平方メートルに増加。

5  被告岩崎の母親である亡岩崎チズ子は、昭和五二年一一月二〇日、木部弘人から四〇番一三の土地と本件建物五〇一号室の区分所有権及びこれに付属するベランダ使用権を買い受けた。その際、既にベランダにはサンルームが設置されており、同日、被告総建から付属建物であるサンルーム内にユニット浴室及び洗濯設備を設けることと付属建物を安全に補強することについての承諾書(乙ロ二)を得た。

亡チズ子が買い受けた五〇一号室については、昭和五二年一二月七日、同年七月二二日新築として表示登記がされたが、その際は床面積が35.57平方メートルとなっていたところ、平成三年五月八日、昭和五四年六月一五日増築として床面積を49.41平方メートルに変更する登記がされている。

サンルーム部分は、昭和五二年当時は、道路側を除く三方は壁になっていたものの道路側は開放された状態でシャワー室などとして使用していたが、昭和五八年末から屋根を取り替えて道路側にアルミサッシの窓を取り付け、内部にユニット浴室を設置する工事を施した。

6  亡髙木は平成三年九月四日に死亡し、四〇番六の土地は髙木悦子が、本件建物地下一階の区分所有権は髙木悦子及び髙木俊和がそれぞれ相続した。

被告大伸フードは、不動産の売買、仲介、管理、建築工事の請負、企画、設計、管理及びコンサルタント業務、土木工事・とび土工事業等を主たる営業目的とする株式会社であり、被告山﨑企画は、不動産の売買、仲介、管理、建築の請負等を主たる営業目的とする株式会社であるが、両社は代表者が兄弟の関係にあり、被告大伸フードは、被告山﨑企画の株式の七〇パーセントを保有し、自らはできない仕事を同被告にさせることもあるほか、両社の従業員が相互に仕事を手伝うことも多かった。

被告大伸フードは、平成六年五月上旬ころ、株式会社マイライフジャパンから本件南側土地の購入を持ちかけられ、その数日後、売主側の仲介業者であった訴外明和不動産株式会社から本件南側土地のほかに本件建物地下一階部分も抱き合わせで買って貰いたいといわれ、結局、同月一八日、髙木悦子から本件南側土地を含む四〇番六の土地(公簿面積300.82平方メートル)を一億六五〇〇万円で、髙木悦子及び髙木俊和から本件建物地下一階の区分所有権を八五〇〇万円で買い受け、それぞれ別個の契約書を作成した(乙ハ三九、四〇)。

被告大伸フードとしては、四〇番六の土地が相場より安価であったため、これを取得したいと考え、本件建物には余り興味を抱かなかったが、売主からの希望に応じて双方の買受けに応じたものであった。被告大伸フードの担当者は、右契約に先立って四〇番六の土地の登記関係や建築規則等について所轄機関で調査をし、同土地の容積率が一六〇パーセントであることも認識していた。また、契約時にマイライフジャパンが作成した重要事項説明書(乙ハ二七、四一)が交付されたが、四〇番六の土地については、「容積率については隣接地のマンション建築の際、本地の一部の容積を使用しており多少の減少が考えられます」との記載があり、本件建物については、四〇番一一ないし二二の一二筆の土地がその敷地であるが、区分所有者がその全体を共有しているのではなく、今回の売買の対象となるのは四〇番一二の土地(公簿面積72.98平方メートル)のみであることが記載されていた。被告大伸フードの担当者は、前者の容積率の点は、四〇番六の土地全体のことではなく、同土地のうち本件北側土地に属し、公道に沿った細長い部分が本件建物の区分所有者の通行の用に供されていることを指しているものと理解した。

7  被告大伸フードは、右土地上に建売住宅四棟を建築し第三者に売却して利益を得ようと考え、平成六年六月二八日、右確認申請に先立って従業員の秋元成一を渋谷区建築課に派遣して事前相談を受けさせた。これに対し、渋谷区は、右土地が昭和五一年九月一日付けで建築確認を受けた本件建物の敷地となっていることを教示し、本件土地に新たに建築物を建てると本件建物が違反建築物となるので、建築計画に当たっては事前に本件建物の所有者等と話し合うような行政指導を行うとともに、同月二九日、原告らを含む本件建物の区分所有者に対し、「敷地の二重使用に係る説明会」の開催通知書を送付し、同年七月五日、渋谷区役所において右説明会を開催した。その席上で、渋谷区は、被告大伸フードの建築計画に係る建築物が実現すれば、本件建物は違反建築物になる旨を説明し、原告らを含む本件建物の区分所有者と被告大伸フードとの間で話合いによる円満解決を図るよう要請した。被告大伸フードは、秋元を代理人として被告総建代表者と交渉し、主として右土地の買戻しを要求したが、被告総建がこれに応じなかったため、同月二七日、渋谷区に対して交渉が不調に終わった旨報告した。また、この間、被告大伸フードは、被告山﨑企画とともに、同月八日、四〇番六の土地について、被告大伸フード持分三〇〇八二分の一〇〇、被告山﨑企画持分三〇〇八二分の二九九八二として錯誤に基づく更生登記を行った上、被告大伸フードの従業員である大崎國夫名義で同月一一日、同月二八日及び同年八月二日の三回に分けて四件の建築確認申請をした。

渋谷区は、その後も被告大伸フードらに円満解決を図るよう指導したが、同年八月一六日以降は大崎の代理人である一級建築士渡辺秀行が早急に建築確認をするよう強く催促するようになったため、同月二四日以降順次、建築確認処分をした(第二七二号、第三二四号、第三三五号、第三三六号。甲六四の4、六七の2、七〇の3、七三の2)。

被告大伸フード及び被告山﨑企画は、建売住宅の建築と販売に着手し、被告山﨑企画において、同月一日、四〇番六の土地を四〇番六の土地(299.82平方メートル)と四〇番二九の土地(1.00平方メートル)に分筆し、さらに同年九月八日、四〇番六の土地を四〇番六の土地(25.38平方メートル)と四〇番三〇ないし三三の土地に分筆し、さらに同年一〇月三一日に四〇番六の土地を四〇番六の土地(12.19平方メートル)と四〇番三五の土地(13.19平方メートル)に分筆した上、四〇番三〇ないし四〇番三三の土地上に住宅を建築し、平成七年二月二八日から同年四月二〇日までの間に合田道人・合田千鶴、吉岡誠一郎、海野浩子、青木絹子らに売却した。その結果、これらの土地は、四〇番六の土地(12.19平方メートル)は、合田道人(持分五〇〇分の九二)、合田千鶴(持分五〇〇分の八)、吉岡誠一郎(持分五分の一)、海野浩子(持分五分の一)、青木絹子(持分五分の一)の共有名義、四〇番三〇の土地(52.00平方メートル)は、合田道人(持分一〇〇分の九二)、合田千鶴(持分一〇〇分の八)の共有名義に、四〇番三一の土地(111.00平方メートル)は青木絹子の名義に、四〇番三二の土地(55.00平方メートル)は海野浩子の名義に、四〇番三三の土地(56.42平方メートル)は吉岡誠一郎の名義になり、現在、四〇番三〇ないし三三の土地の住宅には、登記名義人らが居住している。

8  渋谷区建築部長は、原告ら本件建物の区分所有者に対し、平成七年一月二六日付渋建建発第二七五号により同マンションが建築基準法第五二条及び東京都建築安全条例第一九条に違反する旨通知し、同年三月一五日付渋建建発第三一四号及び同年九月一一日付渋建建発第五二号により違反建築物の是正計画を提出するよう指示した(甲九三ないし九五、一〇六ないし一〇八、乙ハ二九)。

被告総建は、平成六年九月八日、渋谷区建築主事が同年八月二四日付第二七二号をもって建築主大崎に対してした建築確認処分の取消しを求めて、渋谷区建築審査会に審査請求を申し立てたが、平成六年一一月三〇日、棄却された。また、被告総建は、渋谷区長及び渋谷区建築主事を被告として建築確認無効確認等請求事件を提起し、最高裁判所まで争ったが、訴え却下の判決が確定した。

その後、原告大久保、原告平野顥治及び原告平野榮子は、被告総建及び被告岩崎らと共に、平成七年八月二九日、被告大伸フード及び被告山﨑企画に対する損害賠償等請求事件を提起したが(当庁平成七年(ワ)第一六九五五号事件)、被告総建に対しても損害賠償請求の訴えを提起する必要があると考え、平成八年五月上旬頃、右訴えを取り下げ、原告らは、本訴を提起するに至った。

二  請求の趣旨第一項について

右認定の事実関係によると、被告総建は、本件建物の建築に当たり、本件南側土地につき、何らかの私法上の権利は取得し得なかったものの、その所有者である亡髙木から建築基準法上の敷地として使用することの承諾を得て、その旨の建築確認を得ており、これらのことは本件土地及び建物の登記簿及び建築確認関係書類からも読み取れることであり、原告らと被告総建との間の売買契約書にもこれに反する記載はない。

そうすると、原告らの請求のうち、原告らが本件南側の土地に地上権等の私法上の権利を有することを前提とするものは、すべて理由がないことになるし、被告総建は、建築基準法上適法な建物を売り渡したのであり、しかも将来同法上違法な状態となることがないよう亡髙木とも合意をしているのであるから、売主の義務に反するとも認め難く、仮に原告ら主張のように本件建物を建築基準法上適法な状態に保つべき管理責任があったとしても、亡髙木又はその相続人が本件建物の区分所有権と本件土地に関する権利を一括して譲渡することを強制的に差し止めることは不可能を強いるものであり、管理者の義務は、せいぜいその譲受人に対して、法的手段を尽くして本件建物を適法な状態に保つよう要求することにとどまるのであって、被告総建は、その義務を果たしたと認めることができる。また、本件建物が建築基準法上違法な建物となったのは、亡髙木の承継人において、本件南側土地を敷地とする建築確認を取得したことによるのであるが、この事態が生ずる可能性は契約当初から存在し、そのことは前記のとおり客観的にも明らかなことであって、原告らはそのような状態の物件を購入したのであるから、その事態が発生したからといって売主である被告総建において担保責任を負うべきいわれはない。

もっとも、不動産の販売を業とする被告総建としては、売買契約に当たって買主らに右のように売買対象の建物が将来違反建築物となる可能性のあることを説明しなかったことの当否が一応問題となる。原告らは、この点を捉えて被告総建に不法行為責任があると主張するが、前記認定の事実関係によると、被告総建が敢えてこの点について虚偽の事実を述べて原告らに契約をさせた事実はなく、右事態発生の可能性のあることは客観的にも明らかな状況にあったのであるから、被告総建がこの点について説明をしなかったという単なる不作為に基づいて不法行為責任を負うべき法的根拠は見当たらない。そうすると、同被告にはせいぜい債務不履行責任の有無が問題となる程度であるが、仮に債務不履行責任があったとしても、その責任は既に契約時から発生しており、しかも、そのこと自体が客観的に明らかなのであるから、原告らにおいて責任追及も可能であったと認めることができ、そうである以上被告総建が主張するとおり、既に右責任は時効によって消滅しているというほかない(原告らがこの点についての債務不履行責任を明示的には主張していないため、被告総建も消滅時効の主張において右のような債務不履行責任の消滅時効に明示的には言及していないが、同被告の主張は債務不履行責任一般について消滅時効を主張する趣旨と善解することができる。)。また、右消滅時効の援用が権利の濫用に当たると評価すべき事情も見当たらない。

したがって、請求の趣旨第一項に係る請求は理由がない。

三  請求の趣旨第二項について

1  前記認定の事実関係によると、原告らは本件南側土地に地上権等の私法上の権利を有するとは認められないから、その存在を前提とする請求は理由がない。

2 前記認定の事実関係によると、被告大伸フードは、本件南側土地と併せて本件建物の区分所有権も取得しているのであり、しかも本件南側土地を敷地とする建築確認申請をする以前に、そのような建築確認を取得すると同時に本件建物が建築基準法に適合しない違法建築物となることを認識していたものと認めることができる。

建物について区分所有権を有する者は、建物区分所有権の性質上、当該建物の存立を危うくするような行為をしてはならないのであって、そのような行為を敢えて行ったものは他の区分所有者に対して不法行為責任を負うというべきであるところ、被告大伸フードは自己の建築確認取得によって本件建物が違反建築物となることを知りながら、敢えてこれを取得することにより、原告らに対して不法行為を行ったというほかないから、これによって原告らに生じた損害を賠償すべきである。なお、右建築確認の申請者は被告大伸フードではないが、前記認定の一連の事実関係によると、実質的な申請者が同被告であることは明らかであるから、同被告は不法行為責任を免れないし、被告山﨑企画は、事情を知りながら被告大伸フードの不法行為に加担したと認められるから、被告大伸フードと共に不法行為責任を負い、両者は不真正連帯債務の関係にあるというべきである。

3  被告大伸フードらの不法行為によって、本件建物は全体の床面積を大幅に減少させなければならなくなったのであり、言い換えると、当初の建築確認申請時の敷地面積557.654平方メートルから本件南側土地の面積187.98平方メートル分敷地面積が減じたことにより、その減少分に応じた割合(33.71パーセント。なお、原告らは、この割合を34.03パーセントと主張するが、右主張は違算と認められる。)だけ価値が減じたものと認められる。原告らの区分所有権の価値もこの割合に応じて価値が減少したものと認められるから、原告らはその減少分相当の損害賠償請求権を有することとなる。

原告らは、本件建物の右不法行為前における専有面積一平方メートル当たりの価格につき、平成六年七月の本件建物二〇二号室が右面積当たり七七万九四六四円で取引されたことを根拠に(乙ロ三の一七)、八五万円を下回らないと主張するが、本件建物五〇二号室(専有面積57.46平方メートル)について競売手続が行われた際の平成九年九月の時点での評価額は、競売市場修正及び占有減価を施す以前において一七四七万四〇〇〇円、専有面積一平方メートル当たり三〇万四一〇七円であったことが本件記録上明らかであり、本件建物は違反状態ながらも現時点でも使用可能な状態にあることなどを考慮すると、現時点での損害の填補という観点から、原告らの損害額算定に当たっては、専有面積一平方メートル当たりの価格を三一万円として、これに原告各人の専有面積(原告大野107.40平方メートル、原告大久保53.12平方メートル、原告平野両名58.11平方メートルの各二分の一、原告金田54.39平方メートル)及び33.71パーセントを乗じて得た額に一割相当額の弁護士費用を加えた額をもって損害と評価するのが相当であり、その結果は次のとおりとなる。

原告大野勝彦 一二三四万五七四八円

原告大久保利通 六一〇万六二〇二円

原告平野顥治 三三三万九九〇四円

原告平野榮子 三三三万九九〇四円

原告金田秀信 六二五万二一九〇円

したがって、被告大伸フード及び被告山崎企画は、原告らに対し、連帯して、右各金員とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成八年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

四  請求の趣旨第三項について

前記認定のとおり、原告らと被告総建との売買契約において、敷地内の空地の駐車場使用権は売主である被告総建に帰属するとされていることが認められ、同被告は、この使用権に基づいて別紙物件目録一記載の土地を占有しているものと認められるから、原告らが右土地にいかなる権利を有するかにかかわらず、被告総建に対してその明渡しを求めることはできない。

したがって、請求の趣旨第三項に係る請求は理由がない。

五  請求の趣旨第四項について

前記認定のとおり、原告らは、被告総建との売買契約書において、本件建物が六階建てと表示されているにもかかわらず、その点について何ら異議なく契約に応じているし、登記簿の記載からして別紙物件目録二記載の建物部分は既に昭和五二年五月の表示登記時から存在すると認められるにもかかわらず、原告らが平成八年の本訴提起に至るまで、この点について異議を述べた形跡がないことに照らすと、原告らには売買契約締結に当たって右建物部分の所在する部分を共有部分とする意思がなかったと認めることができ、原告らの請求は前提を欠くというほかない。

したがって、請求の趣旨第四項に係る請求は理由がない。

六  請求の趣旨第五項について

前記認定の事実関係によると、亡岩崎チズ子は、本件建物の五〇一号室の区分所有権を取得した際、別紙物件目録三記載の部分の専用使用権も併せて取得したものと理解しており、そのことに過失はないというべきである。また、右部分に建物部分が完成した時期については、当事者間に争いがあるが、原告らにおいても昭和五九年初めには完成していたと主張しているところであり、その後平成八年の本訴提起に至るまで、原告らが右建物部分の存在について異議を述べた形跡はないから、亡岩崎チズ子は遅くとも平成六年の初めまでには右部分の専用使用権を時効取得したものと認めることができる。

したがって、請求の趣旨第五項に係る請求は理由がない。

七  原告らの被告大伸フード及び被告山﨑企画に対する請求は前記三記載の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は失当であるから棄却し、原告らの被告総建及び被告岩崎に対する請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・藤山雅行)

別紙物件目録、配地図<省略>

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